ガサガサの唇。
いたっ!
夜、ビールを飲もうとグラスに口をつけて、ビールが口に触れる瞬間、ピリッとした。
しみる……。
上と下の唇を合わせて「んー」ってしてみる。
あぁ、ガサガサしてる。
余計に荒れてしまうことはわかっているけれど、とりあえずの応急処置でペロッとなめる。
キスができないな。
なんてことは考えなくてもいいんだけど、痛いのは困る。
大きな口が開けられないとか、汁物を飲むときに染みるとか、何かを食べるときに痛いのは本当に困る。
荒れてしまった原因を考えると、すぐにわかった。
昨日も今日も、出歩いていた。
外でなるべくマスクはしていたものの、いつも内勤で、常にマスクをしている環境を考えると外の空気にさらされている。
寒いし、空気は乾燥しているし、いつもより喋っていて口を動かしている。
唇が荒れる原因を探すのは、二時間のサスペンスドラマの犯人を考えるより簡単だ。
普通の女子だったら、リップクリームを塗るだろう。
いや、普通の女子じゃなくても……。
リップをおもむろにポケットの中から出して、ポンとキャップを開けて、くるくるまわして、ニョキッと先っぽを出す。
上唇にひと塗り。下唇にもひと塗り。
上下にもう一往復。
上下の唇を合わせて、ウニウニする。
ちょっとテカった唇を気にせず、何事もなかったかのように次の行動へ。
……どうも好きじゃない。
もちろん、私もやらないことじゃない。
ただ、リップがおもむろにポケットから出てくるように携帯していなくて、探すことになる。
あーそういえば、違うバッグに入れたまんまのポーチの中に入ってるわー。
と、結局あきらめて、何もせずに次の行動へ移ることが9割。
唇のかさつきに気づいたときに、偶然リップが手元にあって、塗っとくか、とするくらい。
頻度としては、一日に一回あればいい方。
好きじゃないのは、ウニウニするところまで見てしまうこと。
そして、それが男子の場合。
目の前で見せないでくれ!
自分がおっさん化していることは横に置いておくくせに、勝手なこと言ってるぜ。
そう思われても仕方はないが、どうも心がザワッとしてしまう。
テカった唇を見て、なんだかいたたまれなくなる。
いや、塗りたくなる気持ち、わかるよ。
唇がガサガサしてるとキスできなくなっちゃうし、美味しいものを食べても痛かったら美味しさが半減しちゃうだろうし。
なんかね、電車の中で化粧するな! っていうくせに、リップはいいんか? ってそんな感じ。
いや、ホントどうでもいいことなんですけど。
目の前でリップを塗ってくれても、全然いいんですけど、なんかザワッとしちゃうんだ。
……。
あっ!
そうか、そういうことか!
リップを塗ってる男子を目撃する
↓
唇に目が行く
↓
キスを意識する
↓
ザワッとする
↓
欲求不満?
いやいやいやいや。
違う違う。
あー、こんなこと考えるんじゃなかった。
ザワッとしてるだけにしておけばよかった。
どよーんとした気持ちになっちゃったじゃないか。
さっさと、自分の唇のケアをして寝てしまうんだった。
いや、意識してませんからー。
おっさんがリップ塗ってる姿、見たくないだけですからー。
あー、ホントどーでもいい。
ところで、私のリップ、どこにあるかな。