浄化された心の中は。

「最近は書いてなくて……」

「さぼってるんですよねー」

 

元々はライティングの人です。

なんて自分を紹介した後の、続く言葉がそんなんだった。

 

週末、天狼院書店の旅部イベントで、里山十帖へ行った。

ある程度、天狼院に通っている人なら、里山十帖と聞いたら「おぉっ!」と思う場所である。

少なからず、私はそのうちのひとりだった。

 

愛用の一眼レフカメラを持って、撮る場所を探してウロウロしてると、天狼院のキッカケは、カメラだと思われる。

いや、違うんですよー。

元々はライティングからで……

ライティングやっているんです。

 

あれ?

 

ライティング……やって、いた?

 

え?

 

いた?

いる?

どっち?

 

ライティング、書くことの勉強を始めたのが2016年の12月。

2年と9ヶ月が経った。

それは、「もう」なのか「まだ」なのかはどっちなんだろう。

長い気もするし、それだけしか経っていないのかとも思う。

 

2月に名古屋から東京に転勤してきて、半年。

ひとりぐらしに慣れることに、職場に慣れることに、仕事に慣れることに、満員電車に慣れることに……。

とにかくあらゆるものに慣れることに必至で。

非日常を、日常に変えていく作業が山積みだった。

仕方ないよ。

だって、ちゃんと仕事しなきゃいけないし、ちゃんと生活しなきゃいけないし。

大丈夫だよ。

私できるし、時間できたらいろいろやれば。

仕方ないよ。

 

仕方ない、仕方ない、仕方ない。

ほんとうに?

 

山積みされた作業をこなすことに目がいって、時間を確保するために、どうしても書くことや撮ることがおろそかになっていた。

おろそかになっていた、というよりも、欲求が湧いてこなかった。

 

書きたい。

撮りたい

 

あんなに強く思っていたはずなのに、心が静かに穏やかになってしまっていた。

湖の湖面のように。

 

 

里山十帖で、綺麗な空気の中で深呼吸をした。

「最近、書いていなくて」

そう答える。

答えるたびに、胸がチクッとする。

何度もそう答えて、そのたびに痛んだ。

 

 

帰りの上越新幹線の中で、シートに身をうずめ、目を閉じる。

 

 

あぁ、そうだったか……。

 

気づいてしまった。

 

私の心の中は、穏やかな湖になっていたんじゃなかった。

静かでいなくちゃと、上流からくるものを止めた。

穏やかでいなくちゃと、下流への流れを止めた。

その結果、湖なんてキレイなものではなく、澱んだ泥沼になっていた。

ただただ留まるだけの、何の流れもないものに。

 

自分でも気づかないうちに、フタをした。

 

それが綺麗な空気で浄化され、ストレスもなく過ごし、頭で考える言葉じゃなくて、心から出る言葉に癒され、自分が欲しい情報を手に入れる。

 

流れ出した。

流れ始めてしまった。

 

ヤバイな、これは。

 

 

……と、書いていたら、帰りの電車で降りるはずの駅を、降りそびれてしまった。

 

まぁ、いいや。

少し遠回りをして帰ろう。

 

遠回りをしても、悪くない。

寄り道だって、怖くない。

 

もう流れ始めたんだから。