ピクルスで妄想。

「ホワイトデーのお返しって、なにがいいんですかね?」

うーん、なにがいいんでしょう。

お菓子とか、ちょっとした小物とか……。

「ピクルスは? 手作りピクルス」

ピクルス!? しかも、手作り?

でも、ちょっと面白い。

 

 

2日前のこと。

京都に行く用事がありました。

その用事の前に時間があったので、珈琲でも飲もうかと京都天狼院に寄りました。

珈琲ともうひとつ、目的はありました。

 

「はい、どーぞ」

「わー、手作りですか? 美味しそう!」

 

バレンタインデー前ということで、いつもお世話になっている京都天狼院の女将のなっちゃんに、お菓子を渡そうと持ってきたのです。

気持ち程度のものだったけれど、すごく喜んでもらえて、来た甲斐があったなぁ、としみじみ思っていました。

 

「会社でも、毎年渡すんだけど、申し訳なくなるくらい、いいお返しをくれるんだよね」

「だってさー」

「それって、めっちゃハードル上げてませんか? でも、ホワイトデーのお返しって、なにがいいんですかね?」

スタッフの子(男子)からの質問。

 

あぁ、たしかに、男の人にとっちゃ悩みのタネかもしれないです。

もらったはいいけれど、お返しを何にするか問題。

 

「ピクルスにしたら? 手作りピクルス」

ピクルスですか?

なかなか面白いんですけど。

「きゅうり入ってて」

ミニトマト、ぜったい入ってるよねー」

「あ、そうそう!」

 

そもそも、ピクルスを漬けている男性は、どうなんでしょう?

かなりリア充な感じ?

いや、でも、バリバリ仕事ができて、家でピクルス作ってるっていうのも……。

 

このあたりからは、妄想大会が繰り広げられました。

 

 

「あー疲れた」

ヒロシは上着を掛けながら、隣りにいても聞こえるかわからないくらいの声で呟く。

「何か、食べるもの、あったかな」

買い置きのものがあったか考えながら、冷蔵庫の中のビールを取り出す。

ここまでの動きは、朝、会社に行ってパソコンの電源を入れてメールチェックをするまでの動きと同じような、ルーティンワークのようなものだ。

 

今日はトラブル続きで、まともな食事をしていない。しかし、これから作る気力も湧いてこない。しまった、途中で何か買ってくればよかったか、と後悔するものの、一度家の中に入ってしまったら、もう出ていく気にはならない。

「あっ、そうだ。あれがそろそろ食べ頃だ」

背中を向けた冷蔵庫の方にもう一度向き直り、ビールの入っていた場所ではなく、それよりも下の野菜室を覗く。食べ頃のアイツを思い浮かべたら、今日、トラブルがあったことなど、ビールの泡とともに消えていくようだった。

冷蔵庫の野菜室の中から、瓶を取り出す。

中には、キュウリやセロリ、パプリカにミニトマトが入っている。

3日前の休日に、余っていた野菜でピクルスを漬けたのだ。

 

ビールのプルタブを開けると、プシュッといい音がする。

グラスに注ぐ。

男の一人暮らしだと缶のまま飲むやつも多いだろうが、ヒロシは必ずグラスに注ぐ。

グラスに注ぐことで格段に味が変わる。

冷えたビールを流し込み、目を閉じ「ウー」と唸る。

うまい。この瞬間がたまらない。

オンとオフが切り替わる、幸福の時間だ。

ふぅ、と息を吐き、ピクルスを一つつまむ。

「んっ、うまい」

酸味がいい具合にきいていて、疲れた体に染み渡る。

 

 

……いや、バリバリ仕事のできる人が、家でピクルスを作ってたら引かない?

そのギャップがいいんですよ。

ピクルスはまだいいけど、ぬか漬けつけてたら、さすがに……。

あ、たしかに! 一周回って、行き着いちゃった、みたいな。

 

そうかー。でも、ホワイトデーのお返しにピクルスって、ちっちゃい小瓶ってこと?

小瓶! そっからだー。どこで売ってるんだろ?

いやー、ピクルス、楽しみだー。

 

と、「ぬか漬け、漬けませんから!」とか「ピクルスも作りませんから!」って外野から声が聞こえてきましたが、そんなことは気にせず、妄想の世界は膨らむのでありました。

 

結局、ホワイトデーのお返しはなにがいいかの結論は出なかったわけなのですが、今までの経験上から言うと、お菓子はダントツに多いです。

無難でしょうね。

私も、あげたいだけなので、期待はしないんです。

ちょっとしか渡さないのに、お返しもらっちゃうのは申し訳ないし。

それでも、男性の皆様は考えてくださるのでしょうね。

 

あ、請求しているわけではないですよ。

 

「美味しかったです。ありがとう」と、素敵な笑顔を見ることができれば満足なので。

 

え? それでも、何がほしいかって?

ビールにあう、おつまみとか?

例えば……ピクルスとか(笑)