バレンタイン・イヴ

「小麦粉が80グラムに、全粒粉が20グラム。

チョコが30グラムでピーナッツクリームも30グラム。

えぇっと、他に何がいるんだっけ……」

 

ひとつひとつの材料を、レシピ本とにらめっこしながら量る。

この本を買って何年になるだろう。どのレシピ本より使い込まれている。

お菓子を作るのは好きだったけど、この本を買ってからは更に好きになった。

「更に」という言葉はちょっと足りない。

「格段に」とか「ものすごく」とか、そんな感じ。

ふさわしい言葉がうまく思い浮かばないけれど、この本のおかげでお菓子作りが大好きになった。

 

ぐるぐるっと混ぜて、材料を順番に加えてまたぐるっと混ぜる。

一口大に丸めて、オーブンシートを敷いた天板の上に。

予熱したオーブンに入れて焼き上げる。

 

ここまで30分もかからない。

とっても手軽に、そして美味しくできるクッキー。

このレシピ本は本当にお菓子作りを大好きで得意なものにしてくれた。

 

オーブンに入れて30分もすると、部屋に甘い匂いがたちこめる。

あぁ、そうだった。

この香りがすると、焼き上がりが近いんだ。

幸せな気分になる。

 

焼き具合を確かめて、オーブンから取り出す。

冷まして冷まして、我慢できなくて、ちょっと温かい状態のものをつまみ食い。

久しぶりのお菓子作りで、勘が鈍っているかと思ったけれど、大丈夫だ。

でも、やっぱり我慢しなくちゃいけなかったかな。

しっかり冷めてからの方が、美味しさが増える。

 

しっかり冷ましてから、袋づめをする。

そうしないと湿気がこもって、せっかくの焼き上がりが台無しになる。

クッキーとビスコッティを1つずつ、つめていく。

 

「買っておけばよかったかな」

 

この作業をするときに、いつも思う。

お菓子をつかむための、ちっちゃめのトングを買っておけばよかったと。

誰かにあげるものを、素手で入れていくのは、ちょっとね。

トングはおっきいのしかないので、代わりに箸を使ってつめていく。

 

さて、いくつできるだろう。

さて、私は誰に渡すのだろう。

さて、何人に渡せるのだろう。

 

明日会う友達に。

職場の人たちに。

渡す人たちの顔を思い浮かべるだけで、楽しくなってくる。

その中に好きな人がいたら、もっと楽しいのかな。

 

 

「ありがとう!」

「ありがとうございます」

「どうもどうも」

 

たくさんの言葉をいただいた。

ひとつひとつ、みんなに渡した。

フライングだったけど、手作りのものなので、早く食べてほしい。

 

職場では、私のお菓子配りが恒例の行事になりつつある。

 

ありがとう、をたくさんもらった。

でも感謝しなければいけないのは、私の方だ。

 

お菓子の材料を買いに行く時間も

お菓子を作る時間も

袋につめる時間も

渡す瞬間も

ぜんぶぜんぶ楽しくて幸せで。

 

渡す瞬間、男性は少年のような表情になる。

ほんと、瞬間の表情だけど、その顔を見ることができるだけで幸せ。

 

小学生や中学生の頃、ドキドキして渡したな。

ちょっとだけ、可愛い女子だった時代のことを思い出した。

その話は、また別の機会に……。

 

 

幸せいっぱいの、バレンタイン・イヴでした。